せん妄は、どの診療科に行っても遭遇する可能性が高い症候群です。
特に、入院したばかりの患者さんや手術後の患者さん、
認知症の患者さんなどでは、しばしばせん妄状態になることがあります。


精神科でなくても、高齢化社会が進んでいることもあり、
せん妄患者さんの数は増加傾向です。
当直中など一人で対応しなくてはいけない時が必ずあるので、
しっかり勉強しておきましょう!!

では、次ページで解説します。
 
せん妄

【せん妄とは?】
 急性で一過性に経過し、軽度〜中等度の意識レベルの低下を背景にして、様々な認知機能障害や精神症状を伴う症候群。

【診断基準】(DSM-5によるせん妄の診断基準)

A)注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)

B)その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間〜数日)、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変動する傾向がある。

C)さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚)

D)基準AおよびCに示す障害は、他の既存の、確定した、または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない。

E)病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患、物質中毒または離脱(すなわち乱用薬物や医薬品によるもの)、または毒物への暴露、または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある。
 (引用:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル )


【 要因】 :せん妄の要因として、3つの因子があります。
※せん妄を予防するために、要因はなるべく少なくすることが重要!

(1)準備因子 :せん妄の準備状態となる素因
 ・高齢(特に70歳以上は特にリスクが高いという報告あり)
 ・認知機能障害
 ・重篤な身体疾患
 ・頭部疾患(脳梗塞・脳出血・頭部外傷等)の既往
 ・せん妄の既往
 ・アルコール多飲
 ・侵襲度の高い手術の前
 
(2)促進因子:せん妄を誘発しやすく、悪化や遷延化につながるもの
 ①身体的要因
  ・疼痛、便秘、尿閉、脱水
  ・不動化、拘束、点滴・ドレーン類
  ・視力低下、難聴
 ②精神的要因
  ・不安、抑うつ
 ③環境変化
  ・入院、ICU入室
  ・明るさ、騒音
 ④睡眠
  ・不眠、睡眠関連障害

(3)直接因子:せん妄を直接引き起こすもの
 ①身体疾患
  a)中枢性疾患
  ・脳血管障害(脳出血・脳梗塞など)
  ・頭部外傷(脳挫傷・硬膜下出血など)
  ・脳腫瘍
  ・感染症(脳炎・髄膜炎・神経梅毒・HIV脳症など)

  b)全身性疾患
  ・感染症(敗血症など)
  ・代謝性疾患(血糖異常・電解質異常・肝不全・腎不全・ビタミン欠乏症など)
  ・膠原病(全身性エリテマトーデス(SLE))
  ・内分泌疾患(甲状腺疾患・副甲状腺疾患、下垂体機能低下症など)
  ・循環器疾患(心筋梗塞・不整脈・心不全など)
  ・呼吸器疾患(呼吸不全など)
  ・血液疾患(貧血・DICなど)
  ・重度外傷・重度熱傷
  ・悪性腫瘍および腫瘍随伴症候群
  ・金属代謝障害(アルミニウム、堂、鉛、マンガン、ヒ素)

 ②薬剤
  ・抗コリン薬
  ・抗パーキンソン薬
  ・向精神薬(ベンゾジアゼピン受容体作動薬、抗うつ薬、炭酸リチウムなど)
  ・抗てんかん薬
  ・消化器系薬剤(H2ブロッカーなど)
  ・循環器系薬剤(降圧薬、抗不整脈薬など)
  ・鎮痛薬(麻薬性および非麻薬性)
  ・喘息治療薬
  ・抗ヒスタミン薬
  ・ステロイド
  ・免疫抑制剤
  ・抗生剤・抗ウイルス剤
  ・抗癌剤
  ・アルコール、覚醒剤、麻薬、大麻などの依存・乱用物質
  ※薬剤の副作用によるせん妄と、急な減量や中止による離脱せん妄が考えられる。

  ※アルコール離脱症状については、別途参照してください。
  
 ③手術
 ・術後に見られる認知機能の低下について、
  術後認知機能障害(Postoperative Cognitive Dysfunction:POCD)という概念がある。 


【せん妄の治療】
    (1)安全の確保
 意識障害の状態であるため、行動の予測が困難であり、
 点滴の自己抜去や暴力の可能性があるため、まずは安全の確保から行う。
 
 (2)環境的な配慮
 環境からの過剰な刺激などはせん妄を増悪させるため、誘発因子を取り除く。
 個室などの静穏な環境を利用することで、
 幻覚や被害的認知などの助長しないようにする。

 (3)医学的介入
 ①初期鎮静
  意識障害の原因を特定するために、
  血液・生化学検査、頭部CT検査、髄液検査などを行う必要があり、
  そのために初期鎮静を必要とすることが多い。
 ②身体検索(器質性因子、原因薬剤などの検索を行う)

 (4)観察と身体管理

  せん妄の観察項目としては、下記が非常に重要。
 ・ 行動の逸脱
 ・異常な発言
 ・見当識障害(時間・場所など)
 ・睡眠覚醒のリズムの異常(概日リズムの異常)
 ・ 摂食量の低下
 ・バイタルサイン


 必ず毎日確認するようにする!
 
 (引用・一部改変:せん妄の治療指針 (日本総合病院精神医学会治療指針1)  )

 治療については、せん妄の治療指針 が非常に役立ちます。
      
    薄くて、それほど高価な本ではないのでぜひ読んでください!


【この記事の参考文献】
1) 井上真一郎,内富庸介:せん妄の要因と予防.臨床精神医学 42(3),  2013
2) 長谷川紀子,池田学:血管障害とせん妄,老年精神医学雑誌26, 2015
3)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
4)せん妄の治療指針 (日本総合病院精神医学会治療指針1)