研修中、特に救急をまわっている時によく遭遇するのが、

大量服薬による救急搬送です。

一刻一秒を争うことも考えられるので、しっかり勉強しておきましょう。


急性期薬物中毒の治療方針は、まず第一に、

バイタルの安定化を行い、重要臓器を保護すること。

特に精神科系薬剤の急性中毒は、誤嚥に伴う合併症への注意が必要です。


薬物で自殺を図った人の過半数が、

医師が処方した睡眠剤や精神安定剤などの向精神病薬を大量服薬しています。

特に注意しないといけないことは、

患者さんは、医師が処方した薬を飲まず、ため込んでいたり、

複数の病院に通ったりして大量にため込むことがあります。

内服コンプライアンをしっかり把握するように努力し、注意が必要です。

他には、市販の薬や農薬を服薬しています。

では、実際に救急外来での対応を勉強しておきましょう。 

(1)催吐

・服薬後1~3時間以内が適応。

※文献により1~3時間と幅があります。服薬した薬剤に依ると思いますが、

基本的には長くても3時間以内が好ましいようです。


【催吐方法】

 約200~250mlの水または牛乳を飲ませ、咽頭の奥を機械的に刺激して嘔吐を促す。


【吐根シロップについて】

・救急室レベルで、吐根シロップ使用による予後の改善はエビデンスがない

・吐根シロップは使用すると、嘔吐が続き、誤嚥の可能性が高くなる

・上記理由で、現在吐根シロップは、基本的に使用しない。

・以前、外国では誤飲時の応急処置用として吐根シロップが家庭に常備されていたが、
 アメリカでは2003年11月からから使用中止となった。
 日本でもわずかながら流通しているが、注意が必要な薬に分類されており、
 2012年にはツムラの製品が販売中止になっているとのことです。


(2)胃洗浄

・基本的に致死的な薬剤以外では行わない。

・原因物質の摂取から1時間以内が好ましい。

→3時間以上経過した場合は効果が薄いが、アスピリン、抗コリン薬などでは試みるべきだという意見もあります。

・挿管しない限り、咽頭反射が消失している症例では禁忌。

→意識障害や痙攣時は気管内挿管後に行う。

・14~16Frの経鼻胃管は内径が小さいため、薬物の粒子や錠剤が通過しないので、
それ以上の内径のものを使用する。


【禁忌】

石油製品、有機溶剤、腐食性の物質(強酸や強アルカリ)は禁忌。

→ただし有機リン系農薬などの場合は挿管下に行う。

・出血性素因

・意識障害が高度で挿管されていない患者


【胃洗浄の適応について】
・日本中毒学会から出されている「急性中毒の標準治療」では、
基本的には1時間以内に実施することが望ましい。時に重大な合併症を起こすので、慣習的漫然と行うことは許されず、適応を選ぶ必要があると書かれている。
 ・American Academy of Clinical Toxicology(AACT)および、
European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists(EAPCCT)によるガイドラインでは、胃洗浄は、生命を脅かす可能性のある量の毒・薬物を服用してから1時間以内に施行することが出来なければ考慮すべきでないとされています。
・胃洗浄のリスクとしては、誤嚥性肺炎、食道・胃の機械的損傷(出血や穿孔)、喉頭痙攣などがあります。 
 

(3)活性炭投与

・活性炭(activated charcoal)はほとんどの毒物(薬物)を吸着し、体内に吸収されない。

・毒性の強い薬物の場合、1日数回投与が勧められている。

→薬物吸着のみでなく、一種の腸管透析によって薬物を除去する。

・通常活性炭1g/kgをマグコロール3~4mL/kgに溶かして胃管から注入する。

→反復投与する場合は、2~3時間ごとに0.5~1g/kgを投与する。


(4)小腸洗浄

・活性炭に吸着されにくい物質や徐放剤、腸溶剤、金属類、麻薬のボディパッカーが主な適応です。

・20%マンニトール200mL、硫酸マグネシウム20~30g、活性炭50g、微温湯300mL。

・強酸・強アルカリ中毒例では禁忌です。


(5)強制利尿

・脱水を改善し、十分な尿量(2mL/kg/hr)を維持し、GFRを増加させて毒物の腎排泄を促す。

・この速度以上の利尿剤を用いるような強制利尿は有効ではない。

・心不全や腎不全があれば禁忌です。

・弱酸性物質では、尿をアルカリ化するほどイオン化率が上がり、尿細管での再吸収率が減る。

※例えば、サリチル酸、フェノバルビタールに対してアルカリ利尿を行う。

→尿pH7.5~9.0に維持、初回メイロン50~100ml div、尿量は2mL/kg/hrを維持、尿pHを適宜確認しながらメイロンを追加する。


(6)血液透析、腹膜透析、血液吸着、交換輸血

【適応】

・臨床経過が悪化している

・毒物の血中濃度が致死的レベル

・遅発性障害の可能性(パラコート、グルホシネートなど)

・腎不全や肝不全のために毒物排泄が遅延する場合


【一口メモ】

・血液浄化法で除去される物質で、分布容量(Vd)が小さい(2L/kg以下)ことが必要。

三環系抗うつ薬、クロルプロマジン、ハロペリドールは分布容積(Vd)が大きく、血漿中にほとんど無いので除去が困難。

・腹膜透析は除去率が低い。

【参考文献】