【定義】

 手術による侵襲が原因で術前・後の相違に対して混乱を来たし、失見当識が生じることによって起こる、一時的な意識の混濁低下、錯覚や幻覚、興奮が見られる状態。指示に従うことが困難、健忘性、話のつじつまが合わない、体動が激しく、落ち着きがなくなるなどの症状が出現する。多くの場合は一過性であるが、せん妄が生じることで、場合によっては術後の回復が遅れることがある。また、高齢者の場合、術後せん妄から認知症ヘと移行することもある(もともと認知症の発症リスクが高かったところに、手術という身体的・心理的ストレスが加わったことで、認知症が発生した可能性は否定できない)。



【術後せん妄の特徴】

1.急激に発症する

  発症日時まで特定できることが多い。

2.前駆症状として不眠・不安を認めることがある

3.術後から発生まで1~2日の意識清明期がある

  日内変動があり、意識が一時的に清明となる場合もある。

4.幻覚としては幻視が多く、幻聴は少ない

5.身体的な重篤合併症はない

6.通常は1週間以内で軽快する

  数時間~数日続く場合があるが、比較的短期間で消失する。

7.後遺症を残さない



【発生要因】

1.年齢

 高齢になるほど発生する割合は増加する。特に8090歳代に多い。

 女性に比べて男性が多い

2.長期に渡る飲酒歴

3.身体的基礎疾患

 血管障害、肝・腎機能障害

 脳器質性疾患、認知機能障害(認知症)

4.術式・手術時間

5.術後合併症

6.全身状態の悪化

7.使用薬剤

 睡眠薬、抗不安薬、H2受容体拮抗薬(抗アレルギー薬)、抗コリン薬、ステロイド

8.鎮痛方法

9.環境

ICUへの移動、ICUからの移動などの環境変化

・アラームやモニター音などの過剰刺激

・感覚の遮断(音、明るさなど)

・臥床安静による身体的制限(身体拘束など)

・ドレーン・ルート類の留置(多ければ多いほどリスクが上がる)
10.睡眠障害
11.掻痒感・疼痛など身体的・精神的ストレス



【術後せん妄の予防】 
 手術によって生じる合併症や身体的・精神的ストレスを可能な限り減らすことで予防することが可能なため、早期に対応することが必要である。

①環境の調整

 なるべく静かで、昼夜の区別がつく部屋での管理が望ましい。

②睡眠覚醒リズムの維持

 日中、ラジオ・テレビ・音楽などを流すことで覚醒を促す。部屋のカーテンを開けるなどして、日中は明るい場所で過ごしていただく。家族の面会も重要であるため、感覚や情報を遮断しないように工夫する。

③疼痛の管理

 疼痛はせん妄の発生原因の1つと言われている。鎮痛は精神的安定を得るために重要であるが、鎮痛剤や安定剤の過量投与は、逆にせん妄や呼吸抑制の原因となるので注意が必要である。


【術後せん妄の治療】

 焦燥を伴ったせん妄には、ハロペリドールが第一選択となる。痙攣を伴ったせん妄にはベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択となるが、焦燥・幻覚・妄想には効果がない。クロルプロマジンは、鎮静効果が強いがα受容体遮断作用、ムスカリン作用のため、心血管系および精神系への副作用が強いので使用には注意が必要である。プロポフォールは、鎮静度の調整が容易だが、高齢者の鎮静には十分な監視が必要となる。夜間のせん妄については、クエチアピン+ラメルテオンが用いられることが近年多くなっている。